『リーダーの「任せ方」の順番』――任せる・育てる・医療安全を両立する実践ガイド
メタディスクリプション
K-HANDS-NEXTで取り扱った『リーダーの「任せ方」の順番』を、医師、看護師、薬剤師、リハビリ職、医療機関の管理職向けに解説する。まぁ生成AIに書いてもらって、備忘録的な記事です。EMPOWER、心理的安全性、Will-Can-Must、社会人基礎力、GROW、コルブの学習サイクルなどを、医療現場の具体例とともに整理する。
書籍情報は最後にあります。
書籍外のこともまとめたので、目次をみて気になるとことに飛んで下さい。
「後輩に任せたい。でも、自分でやったほうが早い」
「任せて失敗されるくらいなら、自分でやったほうが安全だ」
「指示を細かく出すと主体性が育たない。しかし、何も言わなければ丸投げになる」
医療現場で働いていると、このような葛藤に何度も出会う。
「成長のために、まずやらせてみよう」
この言葉だけでは済まされない場面がある。
一方で、失敗を恐れてリーダーがすべてを抱え込めば、後輩は経験を積めず、リーダーは疲弊し、組織はその人がいなければ動けなくなる。
では、任せることと医療安全を、どのように両立すればよいのだろうか。
そんなこんなの解決の一助になるようにメモを残す
- 『リーダーの「任せ方」の順番』――任せる・育てる・医療安全を両立する実践ガイド
- この記事で分かること
- 本書から得た最大の学び――任せるとは「仕事の移動」ではない
- 上司の役割は「得手」と「主体性」を引き出すこと
- プレイングマネジャーの個人業務は3割まで
- ※部下が「信頼されている」と感じるのは、仕事を任されたとき
- 「任せられて嬉しい」と「押し付けられた」の境界線
- Will-Can-Mustで「誰に何を任せるか」を考える
- 「教えれば育つ」は幻想――教えて、課題を残す
- 最初に「失敗の定義」を決めておく
- 成功体験と失敗体験をどう考えるか
- 社会人基礎力を「任せる仕事の設計図」にする
- 職務拡大と職務充実――仕事の量ではなく、成長の質を見る
- 部下が忙しいなら、先にECRSで仕事を減らす
- 任せ方の基本方針――EMPOWERメソッド
- 心理的安全性は「何を言っても許されること」ではない
- 心理的安全性がないと「やったふり」が始まる
- 心理的安全性をつくる三つの心得
- 相手の経験に応じて、任せ方を変える
- 未経験者にはShow-Tell-Do-Check
- 本人に考えてもらうGROWモデル
- ベテランに任せる委任型の三つのステップ
- 管理職を目指す一つの試金石
- 任せた後は、コルブの学習サイクルで振り返る
- 事実確認とフィードバックにはSBIを使う
- 本書の内容を医療現場向けに一枚でまとめる
- 明日から使える「任せ方チェックシート」
- まとめ――任せることは、リーダーが楽をする技術ではない
- 書籍情報・参考資料
- おまけ
この記事で分かること
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リーダーが仕事を抱え込みすぎてはいけない理由
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「任せる」と「押し付ける」の違い
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医療現場での「任せてよい失敗」と「許容できない失敗」
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Will-Can-Mustを使った任せる仕事の選び方
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社会人基礎力12項目の医療現場での具体例
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EMPOWERメソッドを使った依頼の方法
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心理的安全性と医療安全を両立する方法
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OJT、GROWモデル、コルブの学習サイクルの使い分け
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ベテラン職員に任せるときのポイント
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明日から使える「任せ方チェックシート」
本書から得た最大の学び――任せるとは「仕事の移動」ではない
本書を読んで、最も大切だと感じたのは、次の点である。
任せるとは、上司の仕事を部下へ移すことではない。
相手が力を発揮し、成長し、主体的に動ける条件を設計することである。
仕事の移動だけを考えると、任せる行為は「業務の割り振り」になる。
しかし、人の成長まで考えると、任せる行為は「機会の設計」になる。
さらに医療現場では、患者安全まで考えなければならない。
したがって、医療における任せ方は、次の三つを同時に成立させる営みだと考えられる。
| 観点 | 問い |
|---|---|
| 業務遂行 | 誰が、何を、いつまでに行うのか |
| 人材育成 | この経験によって、本人にどのような力がつくのか |
| 医療安全 | どこまで本人に任せ、どこから上司が関与するのか |
この三つのうち、一つでも欠けると問題が生じる。
業務遂行だけを考えれば「押し付け」になりやすい。
人材育成だけを考えれば、患者を練習台にしかねない。
医療安全だけを考えて上司がすべてを行えば、後輩が育たず、持続可能性が失われる。
任せる力とは、この三つのバランスを取る力なのである。
上司の役割は「得手」と「主体性」を引き出すこと
本書では、上司の役割を大きく二つに整理している。
-
部下の得手を引き出す
-
部下の主体性を引き出す
これは、医療現場でもよく分かる。
例えば、診療経験では指導医が勝っていても、若手医師のほうが新しい診療支援AIや文献検索ツールに詳しいことがある。
看護管理者より、現場のスタッフのほうが夜勤帯の患者動線や、記録業務の無駄をよく知っているかもしれない。
ベテラン薬剤師より若手薬剤師のほうが、電子カルテから効率よく情報を抽出する方法を知っていることもある。
上司であることは、「あらゆる能力で部下より優れている」という意味ではない。
上司の役割は、すべての答えを持つことではなく、チームの中に散在している力を発見し、適切な場所で発揮してもらうことなのである。
「主体性がない人」と決めつけない
ある仕事に消極的だからといって、その人全体に主体性がないとは限らない。
例えば、症例検討会ではほとんど発言しない研修医が、患者説明用の資料作成では驚くほど力を発揮するかもしれない。
委員会活動には消極的な看護師が、新人指導では細やかな観察力と責任感を発揮することもある。
抽象化すると、主体性は固定された性格ではなく、次の条件によって変化する状態と考えたほうがよい。
-
仕事に意味を感じられるか
-
自分の得意分野を生かせるか
-
適切な裁量が与えられているか
-
失敗時に支援を受けられるか
-
成長の見通しが持てるか
「この人には主体性がない」と評価する前に、「どの条件が欠けているのか」を考える必要がある。
プレイングマネジャーの個人業務は3割まで
本書では、リーダーの個人業務を全業務の3割程度にとどめることが推奨されている。
紹介されている調査では、個人業務を3割程度に抑えているマネジャーの組織はパフォーマンスが高く、5割を超えると組織成果が低下する傾向が示されたという。1日8時間勤務なら、個人業務はおおむね2~3時間が目安となる。
8時間勤務を分解すると
| 業務の種類 | 時間の目安 | 具体例 |
|---|---|---|
| リーダー自身の個人業務 | 約2~2.5時間 | 自分の診療、文書作成、専門業務 |
| メンバーとの対話・支援 | 約2時間 | 相談対応、進捗確認、フィードバック |
| チームの改善・未来づくり | 約2時間 | 業務改善、教育、体制整備 |
| 調整・緊急対応 | 約1.5~2時間 | 会議、他部署との連携、突発対応 |
もちろん、医療現場では勤務時間をこのとおりに分割できない日もある。
救急搬送が続く日もあれば、欠勤者の代わりに自分が臨床業務を担わなければならない日もある。
重要なのは、毎日厳密に3割にすることではない。
慢性的にリーダーの個人業務が半分以上を占めていないかを点検することである。
1日8時間のうち、個人業務が3時間に達しているなら、すでに37.5%である。恒常化しているなら、黄色信号と考えたほうがよい。
忙しいリーダーは、相談の入口を閉じてしまう
リーダーが忙しそうにしていると、メンバーは次のように考える。
-
「今、声をかけるのは申し訳ない」
-
「これくらいは自分で処理しよう」
-
「もう少し状況がはっきりしてから報告しよう」
-
「悪い知らせを持っていくと機嫌を損ねそうだ」
その結果、相談や報告が遅れる。
医療では、相談の遅れが患者安全に直結することがある。
リーダーの余白は、単なる働きやすさではない。
チームの報告経路を開いておくための安全装置なのである。
※部下が「信頼されている」と感じるのは、仕事を任されたとき
上司は、部下を信頼しているつもりでも、その信頼が本人に伝わっているとは限らない。
「期待しているよ」
「いつも助かっている」
そう言われることも嬉しいが、信頼を最も具体的に感じやすいのは、重要な仕事を任されたときである。
本書でも、仕事を任される経験が、本人に「自分は信頼されている」という感覚を与えると説明されている。
ただし、何でも渡せば信頼になるわけではない。
同じ仕事でも、本人が「任せてもらった」と感じる場合と、「面倒な仕事を押し付けられた」と感じる場合がある。
その違いは、仕事の内容だけではなく、依頼の文脈にある。
「任せられて嬉しい」と「押し付けられた」の境界線
押し付けに聞こえる伝え方
「手が空いているなら、これをやっておいて」
「誰もやる人がいないからお願い」
「簡単だから、できるよね」
「とにかく金曜日までによろしく」
これらの伝え方では、上司側の都合しか伝わらない。
本人にとっては、なぜ自分なのか、この経験が何につながるのか、何を期待されているのかが分からない。
任せられたと感じやすい伝え方
「この退院支援カンファレンスの進行を、あなたに任せたいと思っています。最近、患者さんや多職種の話を整理する力が伸びているからです。今回の経験を通じて、チームの意見をまとめる力をさらに身につけられると思います。最初に進め方を一緒に確認し、終わった後に振り返りましょう」
本書は、なぜその人に任せるのか、その仕事がどのような成長につながるのかを具体的に伝えることが、「任されて嬉しい」という感覚につながると説明している
割り当てるのではなく、提案する
任せ方の基本形は、次のようになる。
「○○をあなたに任せたいと思っています。
あなたの△△という強みが生かせるからです。
この経験を通じて、□□の力を伸ばせると思います。
どう感じますか」
最後の「どう感じますか」が重要である。
本人の不安、現在の業務量、関心、必要な支援を聞くことで、一方的な命令が対話に変わる。
任せるとは、拒否を一切許さない形で仕事を渡すことではない。
組織上の必要性を伝えながら、本人が自分の課題として引き受けられる条件を一緒につくることである。
Will-Can-Mustで「誰に何を任せるか」を考える
任せる仕事を考える際に役立つのが、Will-Can-Mustの枠組みである。
| 要素 | 意味 | 医療現場での問い |
|---|---|---|
| Will | 本人がやりたいこと、ありたい姿 | 「今後、どのような医療者になりたいですか」 |
| Can | 現在できること、強み、経験 | 「得意なこと、周囲から頼られることは何ですか」 |
| Must | 組織や役割から求められること | 「チームとして、今どの役割が必要ですか」 |
理想的なのは、三つが重なる仕事である。
本人がやりたいこと(Will)
×
本人ができること(Can)
×
組織が必要とすること(Must)
↓
任せる仕事の候補
例えば、患者教育に関心があり、説明が得意な看護師に、糖尿病患者向けの説明資料の改訂を任せる。
これはWill、Can、Mustが重なっている。
一方、組織が必要としているからという理由だけで、本人の関心や能力を無視して業務を渡すと、「やらされ仕事」になりやすい。
Willを明確に語れる人は、案外少ない
「将来、何をしたいですか」
そう尋ねても、すぐに答えられる人ばかりではない。
特に、日々の業務で精いっぱいの人や、まだ十分な経験を積んでいない人にとって、明確なWillを語ることは難しい。
その場合、壮大な将来像を求めなくてよい。
次のような質問から始めると、Willの種が見つかりやすい。
-
最近、やっていて面白かった仕事は何か
-
もう少し上手になりたいことは何か
-
周囲から感謝された仕事は何か
-
苦にならずに続けられることは何か
-
半年後、今より少しできるようになっていたいことは何か
-
「この人のようになりたい」と思う医療者はいるか
Willは、上司が聞き出す「正解」ではない。
対話を重ねながら、本人と一緒に言語化していく仮説である。
「教えれば育つ」は幻想――教えて、課題を残す
「教えれば育つ、は思い込み」という問題提起がある。
知識を伝えるだけで、人が自動的に成長するわけではない。
医学書を読んだだけでは診療ができないように、リーダーシップの説明を聞いただけでも人を動かせるようにはならない。
成長には、少なくとも次の要素が必要である。
知識を得る
↓
実際にやってみる
↓
うまくいかなかった部分に気づく
↓
原因を考える
↓
次の方法を試す
したがって、育成に必要なのは「教え切ること」ではない。
最低限必要なことを教えたうえで、本人が考えなければ解けない課題を残すことである。
医療現場の例
後輩に患者説明を任せるとき、説明内容を一字一句指定してしまえば、その場はうまくいくかもしれない。
しかし、本人は「上司の台本を再生した」だけで終わる。
一方、次のように任せると学習課題が残る。
「患者さんが治療の目的、主な選択肢、注意点を理解し、自分の希望を話せる状態をゴールにしましょう。説明の順番と言葉の選び方は任せます。説明前に、どのように進める予定か一度教えてください」
ゴールと安全条件は示す。
しかし、具体的な説明方法には本人が考える余地を残す。
この余白が、成長を生む。
最初に「失敗の定義」を決めておく
リーダーが任せきれない最大の理由の一つは、失敗への恐れである。
本書では、失敗を大きく次の二つに分けて考える。
-
成長への投資になる失敗
-
取り返しのつかない失敗
そして、取り返しのつかない失敗でなければ、学びのための投資として扱うという考え方が示されている。
ただし、この考え方を医療現場に持ち込むときは、慎重な翻訳が必要である。
患者の生命、重大な後遺症、個人情報、法令、倫理に関わる失敗を、安易に「成長への投資」と呼んではならない。
医療現場における失敗の三分類
| 区分 | 意味 | 例 | リーダーの関与 |
|---|---|---|---|
| 赤:回避すべき失敗 | 患者への重大な危害、法令・倫理違反につながる | 致死的な薬剤投与、重大所見の見逃し、個人情報漏えい | 事前確認、直接監督、即時報告 |
| 黄:管理された挑戦 | 失敗時の影響はあるが、早期発見・修正が可能 | 初めての退院調整、患者説明、会議進行 | 中間確認、相談基準、バックアップ |
| 緑:学習への投資 | 修正可能で、患者への重大な影響が少ない | 資料作成、勉強会運営、業務改善案の作成 | 原則として本人に任せ、後で振り返る |
任せる前に、少なくとも次の四点を決めておく。
-
絶対に避ける事態は何か
-
どの時点で相談するか
-
上司が事前に確認する部分はどこか
-
問題が起きたとき、誰がどのように支援するか
「失敗しても大丈夫」と曖昧に伝えるのではない。
何が大丈夫で、何は大丈夫ではないのかを言語化する。
それが、安心して任せるための条件となる。
成功体験と失敗体験をどう考えるか
成功体験は、次の成功可能性を高める。
一方、本書では、ロケット打ち上げ産業の組織学習を分析したMadsenとDesaiの研究を紹介し、失敗経験の学習効果が成功経験より大きかったと説明している。本書の紹介記事では、分析係数の比較から「約4倍」と表現されている。
ただし、この「4倍」という数字には注意が必要である。
これは、世界のロケット打ち上げ組織を対象とした特定の研究モデルに基づく比較であり、あらゆる職場、あらゆる課題、ましてや医療事故にそのまま適用できる普遍的な倍率ではない。
大切なのは数字そのものではなく、次の構造である。
成功
→ 現在の方法が有効だと確認できる
→ 方法が洗練される
失敗
→ 現在の方法では足りないと気づく
→ 原因を探す
→ 新しい情報や方法を探索する
→ 認識や行動が更新される
失敗が自動的に学びになるわけではない。
失敗を隠したり、個人を責めたり、原因を曖昧にしたりすれば、同じ失敗が繰り返される。
失敗が学びになるためには、次の条件が必要である。
-
重大な危害を避ける仕組みがある
-
事実を率直に報告できる
-
振り返る時間がある
-
原因を個人の性格だけに帰属させない
-
次に変える行動を決める
-
再挑戦する機会がある
つまり、失敗からの学習効果を生むのは、失敗そのものではなく、失敗後の探索と振り返りなのである。
社会人基礎力を「任せる仕事の設計図」にする
経済産業省は、社会人基礎力を「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」とし、三つの能力と12の能力要素に整理している。(経済産業省)
社会人基礎力は、部下を評価するためだけの一覧表ではない。
「この仕事を任せることで、どの力を伸ばすのか」を考えるための地図として使える。
社会人基礎力12項目と医療現場の具体例
| 三つの力 | 能力要素 | 抽象的な意味 | 医療現場での具体例 |
|---|---|---|---|
| 前に踏み出す力 | 主体性 | 自ら取り組む | 病棟の転倒事例を見て、自分から改善案を作る |
| 前に踏み出す力 | 働きかけ力 | 周囲を巻き込む | 医師、看護師、薬剤師に声をかけ、服薬支援の方法を検討する |
| 前に踏み出す力 | 実行力 | 目標に向けて行動する | 決めた患者教育プログラムを試行し、期限までに評価する |
| 考え抜く力 | 課題発見力 | 現状と理想の差を捉える | 退院延期の原因が説明不足ではなく、家族調整の遅れだと見抜く |
| 考え抜く力 | 計画力 | 手順や優先順位を組み立てる | カンファレンスまでに必要な情報と担当者を整理する |
| 考え抜く力 | 創造力 | 新しい方法や価値を生む | 紙の説明資料を動画とQRコードに置き換える |
| チームで働く力 | 発信力 | 分かりやすく伝える | 患者の変化を結論、根拠、提案の順で報告する |
| チームで働く力 | 傾聴力 | 相手の意見を丁寧に聴く | 患者本人、家族、多職種の異なる希望を整理する |
| チームで働く力 | 柔軟性 | 意見や状況の違いに対応する | 自分の案に固執せず、患者の価値観に合わせて計画を修正する |
| チームで働く力 | 状況把握力 | 自分と周囲の関係を見る | チームが多忙な時間帯を避けて相談や依頼を行う |
| チームで働く力 | 規律性 | 約束やルールを守る | 報告期限、個人情報保護、感染対策の手順を守る |
| チームで働く力 | ストレスコントロール力 | ストレスに対処する | 緊張する場面でも抱え込まず、早めに支援を求める |
社会人基礎力を使った任せ方
例えば、「多職種カンファレンスの進行」を任せる場合、伸ばしたい力を次のように明確にできる。
-
発信力
-
傾聴力
-
状況把握力
-
働きかけ力
-
計画力
依頼するときに、すべてを伝える必要はない。
「今回は、異なる意見を整理して、参加者が次の行動を決められる進行力を伸ばす機会にしてほしい」
このように一つか二つに絞ると、本人も何を意識すべきか分かりやすい。
職務拡大と職務充実――仕事の量ではなく、成長の質を見る
任せる仕事を考えるときには、二つの視点が役立つ。
職務拡大:Job Enlargement
職務拡大とは、同程度の責任や難易度の業務を横方向に広げることである。
例えば、病棟看護師が担当する係を一つ増やす、医師が追加の委員会に参加する、といった形である。
職務充実:Job Enrichment
職務充実とは、判断、計画、裁量、責任、振り返りなどを含め、仕事を縦方向に深くすることである。一般に、職務拡大が仕事の幅を広げるのに対し、職務充実は自律性や責任を高める方向の職務設計と整理される。(JSTOR)
| 観点 | 職務拡大 | 職務充実 |
|---|---|---|
| 方向 | 横に広げる | 縦に深める |
| 主な変化 | 業務の種類・量が増える | 裁量、判断、責任が増える |
| 例 | 委員会をもう一つ担当する | 委員会の課題設定から改善評価まで任せる |
| 注意点 | 単なる負担増になりやすい | 支援なしでは過重責任になりやすい |
悪い任せ方は、職務拡大だけを行う。
「あなたは仕事ができるから、これも、あれもお願い」
これでは、優秀な人ほど疲弊する。
良い任せ方は、職務充実を意識する。
「これまで資料作成を担当してくれましたが、今回は課題設定と進行方法も含めて任せたいと思います。最終決定の前に一度相談してください」
任せるとは、仕事を増やすことではない。
本人が考え、決め、成果を実感できる範囲を広げることである。
部下が忙しいなら、先にECRSで仕事を減らす
「任せたいが、部下も忙しい」
この悩みに対して、「何とか時間をつくって」と言うだけでは解決しない。
新しい仕事を任せる前に、現在の業務を減らす必要がある。
そこで役立つのがECRSの法則である。
E:Eliminate なくせないか
C:Combine まとめられないか
R:Rearrange 順番や担当を変えられないか
S:Simplify 簡単にできないか
一般に、この順番で検討すると改善効果が高いとされる。(アドフ)
| ECRS | 問い | 医療現場の例 |
|---|---|---|
| Eliminate | そもそも、やめられないか | 誰も活用していない集計表を廃止する |
| Combine | 一つにまとめられないか | 二つの委員会で重複する報告を統合する |
| Rearrange | 順番、時間、担当を変えられないか | 毎日行っていた確認を、条件に応じた実施へ変更する |
| Simplify | より簡単にできないか | 自由記載をテンプレートやチェック欄に変える |
ECRSで最も重要なのはE
業務改善というと、すぐにテンプレートやデジタル化を考えがちである。
しかし、不要な仕事を効率化しても、「不要な仕事を速く行う」だけである。
最初に問うべきなのは、
「この仕事は本当に必要か」
である。
新しい仕事を任せるときは、「これを追加する代わりに、何を減らすか」もセットで考えたい。
任せ方の基本方針――EMPOWERメソッド
本書では、主体性を高める任せ方を、EMPOWERという七つの原則に整理している。(明日香出版社)
| 文字 | 原則 | 意味 | 医療現場での実践 |
|---|---|---|---|
| E | Exposure | 必要な情報を開示する | 背景、経緯、患者・組織への影響を共有する |
| M | Mission | 目的と成果を明確にする | 「資料を作る」ではなく「患者が選択肢を理解できる状態を作る」 |
| P | Psychological Safety | 心理的安全性を確保する | 早めの相談や悪い報告を歓迎すると伝える |
| O | Ownership | 自己決定感を持たせる | 方法や進め方を本人に考えてもらう |
| W | Wrap-up | 振り返りを予約する | 開始時点で中間確認日と終了後の面談日を決める |
| E | Essence | 仕事の意味を伝える | その仕事が患者やチームにどう役立つかを説明する |
| R | Range | 裁量の範囲を明確にする | 自分で決めてよいこと、相談すること、上司が決めることを分ける |
EMPOWERを使った依頼例
「退院患者さん向けの服薬説明資料の改訂をお願いしたいです。
現在、説明内容が担当者によって異なり、患者さんが退院後に混乱することがあります【Exposure】。
今回のゴールは、患者さんが自宅での服薬方法と、困ったときの連絡先を理解できる資料を作ることです【Mission】。
最初から完璧でなくて構いません。不明点や難しい点は、早めに相談してください【Psychological Safety】。
構成や表現方法は、あなたが最も伝わりやすいと思う形を提案してください【Ownership】。
来週水曜日に草案を確認し、運用開始後2週間で振り返りましょう【Wrap-up】。
この資料は、患者さんの服薬間違いを防ぎ、安心して自宅療養を続けるためのものです【Essence】。
内容とデザインは提案して構いませんが、薬剤名と注意事項は薬剤部の確認を受けてください【Range】」
これだけ伝えれば、仕事の輪郭がかなり明確になる。
任せる際に説明が長すぎる必要はないが、少なくとも次の三つは欠かせない。
-
何のために行うのか
-
どこまで任せるのか
-
困ったとき、いつ相談するのか
心理的安全性は「何を言っても許されること」ではない
心理的安全性は、医療現場において特に重要な概念である。
Amy Edmondsonは、心理的安全性を、意見、質問、懸念、失敗などを表明しても、罰や屈辱を受けないとメンバーが信じられる状態として論じている。
ただし、それは緊張感のない仲良し集団や、「何をしても責任を問われない環境」を意味しない。明確な目標や説明責任と、率直に発言できる環境は両立する。(ハーバードビジネススクールライブラリー)
医療における心理的安全性
例えば、看護師が医師の薬剤指示に疑問を感じたとする。
心理的安全性が高いチームでは、
「この投与量でよいか、もう一度確認してもよろしいでしょうか」
と言える。
心理的安全性が低いチームでは、
「間違っていたら恥ずかしい」
「怒られるかもしれない」
「立場の低い自分が言うべきではない」
と考え、発言を控える。
実際、Edmondsonの研究では、薬剤量に疑問を感じた看護師が医師へ確認する場面や、手術室で職種を超えて懸念を表明することが、心理的安全性の例として論じられている。(Harvard Business School)
心理的安全性は、優しい職場をつくるためだけの概念ではない。
異常や違和感を、患者に危害が及ぶ前に言葉にするための医療安全基盤である。
心理的安全性がないと「やったふり」が始まる
本書では、心理的安全性のない環境で強いプレッシャーを受けると、人は本音や失敗を隠し、「やったふり」をするようになると警鐘を鳴らしている。
さらに、それがエスカレートすると、帳尻合わせ、改ざん、虚偽などの不正につながり得ると指摘する。(ZUU online)
医療現場で考えると、次のような状態である。
-
実施していない確認を「実施済み」と記録する
-
患者への説明が不十分なのに「説明済み」とする
-
遅延や未完了を隠すため、記録上の時刻を調整する
-
インシデントを報告せず、なかったことにする
-
理解できていないのに「分かりました」と答える
不正を行った本人の責任は、当然なくならない。
しかし、同様の行動が繰り返されるなら、個人の倫理観だけでなく、組織が「正直な報告より、問題がないように見せること」を評価していないかを検討する必要がある。
心理的安全性をつくる三つの心得
1.言い訳を直ちに否定せず、学びに戻す
ミスの報告を受けたとき、相手が事情を説明すると、
「言い訳をするな」
と言いたくなることがある。
しかし、説明の中には、再発防止に必要な情報が含まれているかもしれない。
-
指示が曖昧だった
-
複数業務が重なっていた
-
相談相手が不在だった
-
手順書と実際の運用が異なっていた
-
必要な情報へアクセスできなかった
まずは一定時間、遮らずに話を聴く。
その後で、
「では、次に同じ状況になったとき、何を変えればよいでしょうか」
と学びへ戻す。
言い訳を聞くことは、責任を免除することではない。
背景を理解し、変えられる条件を探すための作業である。
2.上司が弱みや不完全さを見せる
上司が常に正解を知っているように振る舞うと、部下は自分の不確実さを表明しにくくなる。
一方、上司が次のように言えると、相談の入口が開く。
「私も見落とすことがあります。違和感があれば必ず言ってください」
「この分野は、あなたのほうが詳しいと思います」
「私の考えにも抜けがあるかもしれません。別の見方があれば教えてください」
Edmondsonの研究でも、リーダーが自分の誤り得ることを認め、メンバーへ発言を求める姿勢が、心理的安全性をつくる行動として示されている。(Harvard Business School)
弱みを見せるとは、判断を放棄することではない。
自分の認知には限界があると認め、チームの情報を活用することである。
3.多様性を「我慢する」のではなく、意思決定に生かす
多様性を尊重するとは、異なる意見を表面的に歓迎するだけではない。
-
経験年数の短い人の意見
-
非常勤職員の意見
-
他職種の意見
-
少数派の意見
-
患者や家族の意見
-
自分にとって耳の痛い意見
これらを、意思決定に必要な情報として扱うことである。
リーダー自身と似た意見ばかりが集まるチームは、意思決定が速い。
しかし、盲点にも気づきにくい。
多様性は、会議を少し難しくするかもしれないが、判断を強くする。
相手の経験に応じて、任せ方を変える
任せ方には、常に一つの正解があるわけではない。
未経験者に何も説明せず任せれば、丸投げになる。
一方、十分な経験を持つ人に細かな手順まで指示すれば、マイクロマネジメントになる。
本書では、相手の状況に合わせて、OJT型、ティーチング型、コーチング型、委任型などを使い分ける考え方が紹介されている。(明日香出版社)
| 相手の状態 | 適した関わり | 上司の役割 |
|---|---|---|
| 未経験 | OJT型 | 見本を示し、安全に練習させる |
| 経験が浅い | ティーチング型 | 仕事の全体像、手順、判断基準を教える |
| 一定の経験がある | コーチング型 | 質問によって考えを引き出す |
| 十分な経験がある | 委任型 | 成果と境界だけ示し、方法は任せる |
任せ方の失敗は、能力の高低だけでなく、任せ方と本人の状態の不一致によって起こる。
未経験者にはShow-Tell-Do-Check
初めての業務を教えるときには、次の四段階が分かりやすい。
Show:上司がやって見せる
↓
Tell:ポイントや理由を言葉で説明する
↓
Do:本人にやってもらう
↓
Check:実施後に確認し、フィードバックする
例:初めて電話で他院へ患者紹介を行う研修医
Show
指導医が実際の連絡を行い、どのような順番で話すかを見せる。
Tell
次のポイントを説明する。
-
最初に自分と所属を名乗る
-
相談目的を一文で伝える
-
緊急度を明確にする
-
相手が判断するために必要な情報へ絞る
-
最後に合意事項を復唱する
Do
次の症例では、研修医に実際の電話を行ってもらう。
Check
終了後に、うまくできたことと改善点を振り返る。
「最初に相談目的を伝えたので、相手が状況を理解しやすかったですね。一方、バイタルサインが後半になったので、次はもう少し早い段階で伝えてみましょう」
Showだけでは見よう見まねになる。
Tellだけでは頭の中の理解で終わる。
Doだけでは無謀な実践になる。
Checkがなければ経験が学びに変わらない。
四段階を一つのセットとして考えることが重要である。
以下の部分に差し替えてください。表記は、一般的な英語に合わせて Resource(資源) としています。
本人に考えてもらうGROWモデル
一定の経験を持つ部下に対して、上司がすぐに答えを示してしまうと、本人が状況を整理し、自分で解決策を考える機会を奪ってしまう。
そのような場面で役立つのが、GROWモデルである。
GROWモデルは、質問を通じて本人の思考を整理し、目標から具体的な行動へつなげるコーチングの枠組みである。
一般的には、次の四つの段階で構成される。
G:Goal――目標
R:Reality/Resource――現状と活用できる資源
O:Options――選択肢
W:Will/Way Forward――意思と次の行動
ここで重要なのは、RをReality(現状)だけで終わらせないことである。
問題に直面している本人は、できていないことや足りないものに意識が向きやすい。しかし、実際には、すでにできていること、協力を求められる人、利用できる制度、過去の成功経験など、解決に活用できるさまざまな**Resource(資源)**を持っている。
現状の問題を確認するだけでなく、使える資源にも目を向けることで、本人は「できない理由」を並べる状態から、「今あるものを使って、何ができるか」を考える状態へ移りやすくなる。
GROWモデルの全体像
| 段階 | 意味 | 確認する内容 | 質問例 |
|---|---|---|---|
| G:Goal | 目標 | 目指す状態、得たい成果 | 「最終的に、どのような状態を目指しますか」 |
| R:Reality | 現状 | 現在起きていること、障壁、事実 | 「今、何が起きていますか」「どこで止まっていますか」 |
| R:Resource | 資源 | 強み、経験、協力者、情報、時間、制度 | 「すでに使えるものは何ですか」「誰に協力を求められますか」 |
| O:Options | 選択肢 | 考えられる方法、代替案 | 「どのような方法が考えられますか」「ほかにはありますか」 |
| W:Will/Way Forward | 意思・次の行動 | 実行すること、期限、報告方法 | 「まず何をしますか」「いつまでに行いますか」 |
医療現場での具体例
後輩から、次のような相談を受けたとする。
「患者さんの退院支援が進みません。どうしたらよいでしょうか」
上司がすぐに、
「家族に電話して、ケアマネジャーにも連絡してください」
と指示すれば、その場の仕事は進むかもしれない。
しかし、それを繰り返していると、後輩は困るたびに上司から答えをもらうようになり、自分で状況を整理して解決策を考える力が育ちにくい。
そこで、GROWモデルに沿って質問してみる。
G:Goal――何を目指すのか
「今回、患者さんにとって、どのような退院の形を目指していますか」
まず、目標を明確にする。
単に「早く退院させる」ことが目標ではない。
患者本人と家族が退院後の生活を具体的にイメージでき、必要な医療・介護サービスが整い、安全に療養を継続できることが目標かもしれない。
目標が曖昧なままでは、何を優先して動けばよいかも決められない。
R:Reality――現在、何が起きているのか
「現在、どこまで調整できていますか」
「具体的に、何が退院の障壁になっていますか」
「患者さん本人と家族は、どのように考えていますか」
ここでは、推測や評価ではなく、できるだけ事実を整理する。
例えば、本人は自宅退院を希望しているが、家族は介護負担を心配している。訪問看護は調整できているが、夜間の支援体制が決まっていない。このように整理すると、「退院支援が進まない」という漠然とした問題が、具体的な課題へ変わる。
R:Resource――何を活用できるのか
「すでに調整できていることは何ですか」
「これまでに似た事例へ対応した経験はありますか」
「院内外で、誰に相談できそうですか」
「活用できる制度やサービスはありますか」
「患者さんや家族が持っている強みは何でしょうか」
医療現場におけるResourceには、さまざまなものが含まれる。
| 資源の種類 | 医療現場での具体例 |
|---|---|
| 本人の能力・経験 | 過去の退院支援経験、説明力、調整力 |
| チーム内の人的資源 | 医師、看護師、医療ソーシャルワーカー、薬剤師、リハビリ職 |
| 地域の人的資源 | ケアマネジャー、訪問看護師、かかりつけ医、地域包括支援センター |
| 制度・サービス | 介護保険、訪問診療、ショートステイ、福祉用具 |
| 情報 | 過去の記録、地域資源一覧、院内マニュアル |
| 患者・家族の力 | 本人の意欲、家族の協力、近隣住民との関係 |
| 時間・機会 | 次回カンファレンス、退院前訪問、試験外泊 |
課題だけを見ていると、「足りないもの」ばかりが目につく。
Resourceを確認すると、「すでに持っているものを、どのように組み合わせるか」という発想が生まれる。
O:Options――どのような選択肢があるのか
「考えられる方法を、まず三つ挙げるとしたら何がありますか」
「ほかには、どのような方法がありますか」
「制約がなければ、どのような方法を試したいですか」
「それぞれの方法には、どのような利点とリスクがありますか」
この段階では、最初から一つの正解に絞らない。
例えば、次のような選択肢が考えられる。
-
家族を交えた多職種カンファレンスを行う
-
退院前訪問を行い、自宅環境を確認する
-
訪問看護や定期巡回サービスを導入する
-
試験外泊を行い、家族の不安を具体化する
-
一時的にショートステイを利用し、段階的な在宅移行を目指す
複数の選択肢を並べることで、「家族を説得するしかない」といった思考の狭まりを防ぐことができる。
W:Will/Way Forward――何を、いつ行うのか
「では、最初に何をしますか」
「いつまでに行いますか」
「誰に協力を依頼しますか」
「どの時点で、私に経過を共有しますか」
「実行する自信は、10点満点で何点ですか」
最後に、考えた選択肢を具体的な行動へ変える。
例えば、次のように決める。
「今日中に医療ソーシャルワーカーへ相談し、明日の午前中に家族へ連絡します。3日後までに多職種カンファレンスを設定し、その結果を上司へ報告します」
「家族に連絡する」だけでは、行動としてはまだ曖昧である。
誰が、何を、いつまでに行い、どの時点で共有するのかまで決めることで、実行可能性が高まる。
GROWモデルの流れ
G:Goal
どのような状態を目指すのか
↓
R:Reality
今、何が起きているのか
↓
R:Resource
すでに持っている力や使える資源は何か
↓
O:Options
どのような方法が考えられるか
↓
W:Will/Way Forward
何を、いつまでに実行するのか
「Reality」だけでは、問題探しで終わることがある
Realityを詳しく確認することは重要である。
しかし、現状や問題点ばかりを尋ね続けると、対話が次のようになりかねない。
「何ができていないのですか」
「なぜ進んでいないのですか」
「ほかにも問題はありますか」
これでは、本人は自分の不足を追及されているように感じることがある。
そこで、Realityを確認した後に、Resourceへ質問を移す。
「それでも、ここまで進められた理由は何でしょうか」
「すでにできていることは何ですか」
「誰の力を借りられそうですか」
「以前うまくいったときには、何をしていましたか」
Realityが「現在地を知る問い」だとすれば、Resourceは「現在地から動き出すために、すでに持っているものを見つける問い」である。
両方を確認することで、問題分析だけではなく、解決へ向かう対話になる。
GROWモデルで上司が注意したいこと
GROWモデルは、質問の形式を順番どおり使えばよいというものではない。
上司が自分の望む答えへ誘導するために質問を使えば、それはコーチングではなく、質問形式の指示になる。
例えば、
「まず家族に電話したほうがよいと思いませんか」
という問いは、実質的には指示である。
本人に考えてもらうためには、上司が答えを急がず、沈黙を待ち、本人の言葉を聴く必要がある。
一方で、医療安全上、緊急性が高い場面までGROWモデルだけで対応してはいけない。
患者の状態が悪化している、重大なリスクが迫っている、法令や倫理上の問題があるといった場合には、上司が明確に指示し、迅速に介入する必要がある。
| 状況 | 適した関わり |
|---|---|
| 緊急性・危険性が高い | 上司が明確に指示する |
| 未経験で基礎知識が不足している | ティーチングやOJTを行う |
| 一定の経験があり、自分で考えられる | GROWモデルで思考を支援する |
| 十分な経験と能力がある | 成果と境界を示し、委任する |
GROWモデルの目的は、すべてを本人だけで解決させることではない。
本人が目標と現状を整理し、自分や周囲の資源に気づき、複数の選択肢から次の行動を選べるように支援することである。
上司が答えを与えるのではなく、本人の中と周囲にすでに存在している答えの材料を、一緒に見つける。
それが、GROWモデルを使った任せ方の本質である。
ベテランに任せる委任型の三つのステップ
自分より経験や実力のあるベテランに任せる場合、上司が方法まで細かく指定する必要はない。
基本は次の三段階である。
1.期待する成果を明確に伝える
「新しい入院時オリエンテーションを作ってください」
ではなく、
「入院当日に、患者さんと家族が今後の流れと相談先を理解できる状態をつくってください」
と、成果で伝える。
2.やり方は本人に任せる
ベテランは、自分なりの経験、関係性、判断基準を持っている。
上司が方法を細かく指定すると、その強みを生かせない。
3.実行前に方針の報告を受ける
やり方は任せるが、実施後に初めて内容を知るのでは遅い場合がある。
「進め方は任せます。開始前に、全体方針と想定リスクだけ共有してください」
と伝える。
これはマイクロマネジメントではない。
患者安全や組織的整合性を保ちながら、本人の裁量を最大限にするための確認である。
管理職を目指す一つの試金石
管理職を目指すかどうかを考えるとき、
「自分は人より仕事ができるか」
だけを基準にしてはいけない。
管理職に求められるのは、自分が成果を出す力だけではない。
人が動ける条件をつくることに、自信と関心を持てるか
という問いが重要になる。
ここでいう「人を動かす」とは、命令によって従わせることではない。
-
目的を共有する
-
相手の得意を見つける
-
適切な仕事を提案する
-
必要な情報と裁量を渡す
-
不安や障壁を取り除く
-
挑戦を支援する
-
経験を学びへ変える
こうした働きかけによって、本人が自ら動けるようにすることである。
自分が100の仕事を行うことと、10人がそれぞれ20の力を出せる環境をつくることは、求められる能力が異なる。
管理職になるとは、「最も優秀なプレイヤーになること」から、「チームの力が最大になる条件をつくること」へ、仕事の重心を移すことである。
任せた後は、コルブの学習サイクルで振り返る
任せただけでは、人は必ずしも成長しない。
経験を学習へ変えるためには、振り返りが必要である。
コルブの経験学習モデルでは、学習を次の四段階の循環として捉える。(CITT)
①具体的経験
実際にやってみる
↓
②内省的観察
何が起きたかを振り返る
↓
③抽象的概念化
経験から原則や仮説を導く
↓
④能動的実験
次の場面で新しい方法を試す
↓
再び具体的経験へ
症例検討会の進行を任せた場合
具体的経験
本人が実際に症例検討会を進行する。
内省的観察
「どの場面がうまくいきましたか」
「どの場面で議論が止まりましたか」
抽象的概念化
「意見が出ないときは、全体へ漠然と質問するより、論点を限定したほうが発言しやすいのかもしれません」
能動的実験
「次回は、最初に『診断』『治療』『生活背景』の三つに論点を分けてみます」
経験を重ねるだけでは、「慣れ」は生まれても、「学び」が生まれるとは限らない。
振り返りによって具体的な経験を抽象化し、次の行動に戻すことで、経験が再利用可能な知恵になる。
事実確認とフィードバックにはSBIを使う
部下の行動について話すとき、
「最近、態度がよくない」
「主体性がない」
「報告が雑だ」
といった評価語だけを使うと、話し合いが感情的になりやすい。
そこで役立つのがSBIである。
-
Situation:どのような状況で
-
Behavior:どのような行動があり
-
Impact:どのような影響が生じたか
SBIは、具体的な状況、観察可能な行動、その影響を分けて伝えるフィードバック方法である。
悪い伝え方
「あなたは、いつも報告が遅い」
「いつも」という言葉は、反論を招きやすい。
SBIを使った伝え方
Situation:昨日の夕方、患者さんの血圧が低下した場面で
Behavior:再測定後も収縮期血圧が80mmHg台でしたが、医師への報告が約30分後になりました
Impact:対応開始が遅れる可能性があり、患者安全上の懸念を感じました
この後、
「そのとき、どのような判断をしていましたか」
と意図や背景を尋ねる。
事実だけを示して終わるのではなく、本人の認識を確認することで、フィードバックが対話になる。
「SBIを3セット」集める
一つの出来事だけで人物全体を評価すると、偶発的な事情を性格の問題と誤認することがある。
そこで、重要な評価や配置判断を行う前には、可能であればSBIを三つ程度集めてみる。
| セット | Situation | Behavior | Impact |
|---|---|---|---|
| 1 | 朝の申し送り | 重要な検査結果の共有がなかった | 日勤者が後から確認する必要が生じた |
| 2 | 退院前カンファレンス | 家族の希望を確認せず結論を急いだ | 退院計画を再調整することになった |
| 3 | 夜間の状態変化 | 基準を超えても報告を保留した | 対応開始が遅れる可能性が生じた |
三つを並べることで、
-
同じ傾向が繰り返されているのか
-
特定の状況だけで起きているのか
-
知識不足なのか
-
判断基準が曖昧なのか
-
忙しさや環境に原因があるのか
を検討しやすくなる。
なお、SBIモデル自体の基本単位はSituation、Behavior、Impactの一組である。「三セット集める」は、単発事例による決めつけを避けるための、本記事における実務上の運用提案である。
本書の内容を医療現場向けに一枚でまとめる
【任せる前】
組織の目的を確認する
↓
任せる仕事を選ぶ
↓
Will・Can・Mustを確認する
↓
ECRSで本人の余白をつくる
↓
失敗の定義と安全境界を決める
【任せるとき】
なぜ本人に任せるのかを伝える
↓
EMPOWERで目的・裁量・相談基準を共有する
↓
本人の理解と不安を確認する
【実行中】
経験に応じて関与を変える
未経験:Show-Tell-Do-Check
中堅:GROWで考えてもらう
ベテラン:成果を示し、方法は委任する
↓
決めた時点で中間確認する
【任せた後】
SBIで事実を確認する
↓
コルブの学習サイクルで振り返る
↓
次の課題と裁量を決める
明日から使える「任せ方チェックシート」
任せる前
-
この仕事の目的を一文で説明できる
-
完成物ではなく、期待する成果を説明できる
-
なぜこの人に任せるのかを説明できる
-
本人のWill、Can、Mustを考えた
-
本人の現在の業務量を確認した
-
ECRSで減らせる仕事を検討した
-
取り返しのつかない失敗を定義した
-
途中で相談すべき条件を決めた
-
上司が確認する部分を決めた
-
失敗時のバックアップ方法を用意した
任せるとき
-
「やっておいて」ではなく、任せたい理由を伝えた
-
この経験が本人の成長にどうつながるかを伝えた
-
必要な情報を開示した
-
本人が決めてよい範囲を明確にした
-
上司が決める範囲を明確にした
-
相談や悪い報告を歓迎すると伝えた
-
本人の理解、不安、異論を確認した
-
中間確認日を決めた
-
終了後の振り返り日を決めた
任せた後
-
すぐに自分のやり方へ修正しなかった
-
結果だけでなく、考えた過程を聞いた
-
できなかったことだけでなく、できたことも確認した
-
SBIで具体的な事実を伝えた
-
本人の意図や背景を尋ねた
-
失敗を責めるだけで終わらせなかった
-
経験から得た学びを言語化した
-
次回に変える行動を一つ決めた
-
次に任せる仕事や裁量を検討した
まとめ――任せることは、リーダーが楽をする技術ではない
任せるというと、リーダーの仕事を減らす手段だと思われることがある。
確かに、適切に任せられるようになれば、リーダーが一人ですべてを抱え込む必要はなくなる。
しかし、任せることの本質は、単なる負担軽減ではない。
任せるとは、
-
相手の得手を見つけること
-
本人が意味を感じられる仕事を提案すること
-
必要な情報と裁量を渡すこと
-
患者安全を守る境界を決めること
-
相談しやすい環境をつくること
-
失敗を隠さず、学びに変えること
-
経験を次の挑戦へつなげること
である。
リーダーが仕事を手放すだけなら、丸投げになる。
リーダーが方法をすべて指定すれば、作業代行になる。
何も失敗させまいと先回りし続ければ、主体性は育たない。
反対に、安全境界を設けずに挑戦させれば、無責任になる。
良い任せ方とは、放任と過干渉の中間ではない。
目的と安全の境界は明確にし、その内側では本人に考え、決め、試してもらうこと。
これが、任せることと育てること、そして医療安全を両立するための基本なのだと思う。
明日、すべてを変える必要はない。
まずは一つだけ、
「自分が抱えているこの仕事は、本当に自分にしかできないのか」
と問い直してみる。
そして任せられそうな仕事が見つかったら、
「これをあなたに任せたい。あなたのこの強みが生かせるし、このような成長につながると思う」
と、提案してみる。
その一言は、リーダーの負担を減らすだけでなく、誰かにとって「自分は信頼されている」と感じる瞬間になるかもしれない。
任せることは、仕事を手放すことではない。
人の可能性に、仕事という形で機会を手渡すことなのである。

書籍情報・参考資料
-
伊庭正康『リーダーの「任せ方」の順番――部下を持ったら知りたい3つのセオリー』明日香出版社、2025年。(明日香出版社)
-
経済産業省「社会人基礎力」。(経済産業省)
-
Amy C. Edmondson, “Managing the Risk of Learning: Psychological Safety in Work Teams.” (Harvard Business School)
-
Peter M. Madsen and Vinit Desai, “Failing to Learn? The Effects of Failure and Success on Organizational Learning in the Global Orbital Launch Vehicle Industry.” (Academy of Management Journals)
-
Center for Creative Leadership, Situation-Behavior-Impact Model. (CCL)
-
Performance Consultants, GROW Model. (Performance Consultants)
-
University of Florida, Kolb’s Four Stages of Learning. (CITT)
おまけ
わたくし、日常診療のかたわら、『医はき師 てらぽん』(医はき師=医師+はり師+きゅう師)を名乗り、医師、鍼灸師を含む医療人が正しく活躍でき、お困りの方々がHappyになれるようなことをデザイン中✨
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